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【徹底解説】適格機関投資家等特例業務とは?──不動産ファンドや蓄電所ファンドで必ず知っておくべきポイント





【徹底解説】適格機関投資家等特例業務とは?──不動産ファンドや蓄電所ファンドで必ず知っておくべきポイント


【徹底解説】適格機関投資家等特例業務とは?──不動産ファンドや蓄電所ファンドで必ず知っておくべきポイント

不動産ファンドや再エネ(太陽光・蓄電所)ファンドを組成する際に必ず話題に上がるのが
「適格機関投資家等特例業務(いわゆる QII スキーム)」です。

本記事では、法律の根拠から実務上の注意点、さらに誤解されがちな
「届出制適格機関投資家(個人・法人)の要件」
までわかりやすく整理します。


1. 適格機関投資家等特例業務とは?

適格機関投資家等特例業務とは、金融商品取引法第63条に定められた特例制度で、
次の条件を満たす場合に利用できます。

要件はたった2つ

  • 適格機関投資家(QII)が1名以上出資者に含まれていること
  • その他の出資者が49名以下であること

これを満たせば、本来「集団投資スキーム持分」を販売する際に必要な
第二種金融商品取引業の登録が不要になります。

そのため、小規模ファンドや特定少人数型の不動産・エネルギーファンドでよく利用されます。


2. 出資比率に制限はあるのか?

結論:法律上は制限がありません。

  • QII の出資比率は 1%未満でも構わない
  • QII の出資額が極端に小さくても違法ではない

なぜなら、第63条は「比率」ではなく
「QIIが1名以上存在すること」だけを要件としているからです。

ただし実務上の注意点

金融庁は形式的な利用を警戒しており、例えば次のようなケースは問題視されやすくなります。

  • QIIの出資が極端に少額
  • 実質的には一般投資家ばかりが出資しているスキーム

このような場合、
「実質的には一般投資家向けファンドと変わらない」
と評価され、一般のファンドと同程度の説明義務・投資者保護が求められる可能性があります。

そのため実務では、
QIIが一定割合(例:10〜20%程度)を出資する構成
が採用されることも少なくありません。


3. 適格機関投資家(QII)とは?

QII は金融商品取引法施行令第10条に定められている「投資のプロ」です。
代表的な例としては以下のような主体が挙げられます。

代表的なQIIの例

  • 銀行
  • 信託銀行・信託会社
  • 証券会社(第一種金融商品取引業者 等)
  • 保険会社
  • 投資信託委託会社
  • 投資法人(J-REIT など)
  • 年金基金
  • 政府系金融機関(日本政策投資銀行、商工中金 など)

これらは 届出不要で自動的にQII として扱われます。


4. 届出制適格機関投資家(個人・法人)の要件

ここは誤解が多い重要ポイントです。
「届出さえすれば誰でもQIIになれる」という説明がインターネット上に見られますが、
これは誤りです。

届出制適格機関投資家(届出QII)には、
個人法人の区分があり、それぞれ要件が異なります。

4-1. 個人の届出適格機関投資家の要件

要件のポイントは2つです。

  • 金融資産10億円以上であること(政令10条1項28号)
  • 金融庁への届出を行っていること

金融資産の定義は内閣府令第10条の3に定められており、
預金、上場株式、債券などが含まれます。

つまり、「金融資産が10億円以上ある富裕層の個人」が、
届出を行うことでQIIとして扱われる仕組みです。

なお、届出制QII(個人)のリストは、プライバシー保護の観点から
金融庁によって公表されていません

4-2. 法人の届出適格機関投資家の要件

法人についても届出によりQIIとなることができますが、
一般法人(株式会社・合同会社等)には明確な資産要件があります。

一般法人(株式会社等)の場合

一般の株式会社・合同会社などが届出QIIになるには、
金融商品取引法施行令第10条第1項第23号イにより、
次の要件が課されています。

  • 直近の貸借対照表において、有価証券の帳簿価額が10億円以上であること

したがって、
「一般法人が資産要件なしで届出QIIになれる」という説明は誤りです。

ファンドビークル等の特殊なケース

特定投資事業有限責任組合(いわゆるLPS)など、
一部の投資ビークルについては別規定により届出QIIとなることができ、
有価証券10億円要件が課されていないケースもあります。

この点が「法人の届出QIIには資産要件がない」と誤解される原因の一つです。


5. QIIスキームを利用する際のリスクと注意点

一般投資家を含める場合の説明義務

QIIスキームであっても、
出資者の中に一般法人や個人の一般投資家が含まれる場合、
「プロ向けだから軽い説明でよい」と判断するのは危険です。

金融庁は投資者保護を重視しており、実質的に一般投資家がいる場合には、
通常のファンドと同様レベルの説明・情報提供を求められると考えるべきです。

名目的QII参加への警戒

QIIの出資が極端に少額で、実質的には一般投資家が大半という場合、
金融庁から「適格機関投資家等特例業務の濫用」と見なされるリスクがあります。

法律上、出資比率の制限はないものの、
形式だけQIIに参加してもらうようなスキームは避けるべきです。

QIIであることの証明書類

事業者側は、投資家がQIIであることを確認するために、例えば次のような書類を取得・保存しておくことが望ましいとされています。

  • 適格機関投資家届出書の写し
  • 届出受理通知の写し
  • 受理番号等が記載された書面

6. 不動産ファンド・蓄電所ファンドでの活用イメージ

QIIスキームは、不動産特定共同事業(不特法第3号事業)との組み合わせで活用されるケースが多く見られます。

スキーム例

  • 投資家A:証券会社(QII) 1名
  • 投資家B:一般法人 1名

上記2名で匿名組合を組成し、不特法第3号事業としてSPC(合同会社)を通じて不動産または蓄電所を保有・運営するケースが典型的です。

この場合、
「QII1名+その他49名以下」という要件を満たしていれば、
金商法上の第二種金融商品取引業の登録を要せずにスキームを構築できます。

特定少人数・限定投資家による再エネファンドや不動産ファンドには、非常に相性の良い制度といえます。


まとめ

  • 適格機関投資家等特例業務は、QII+49名以下の投資家であれば金商法の規制が大幅に緩和される制度。
  • QIIの出資比率に法律上の制限はないが、形式的参加は監督当局から問題視される可能性がある。
  • 届出制適格機関投資家には明確な要件があり、個人は金融資産10億円以上一般法人は有価証券10億円以上が必要。
  • 不動産ファンドや蓄電所ファンドなど、小規模・少人数ファンドでの資金調達に有効なスキームである一方、投資者保護と当局対応を意識した設計が不可欠。

実際のスキーム設計や契約書作成にあたっては、最新の法令・ガイドラインを確認したうえで、
必ず専門家(弁護士・公認会計士・証券関連専門家等)と連携しながら進めることをおすすめします。



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