不動産仲介業者が売買代金を預かるのは違法?信託業法・資金決済法との関係を徹底解説!
不動産売買の現場では、契約締結時に授受される手付金や決済に充当される代金の一部を、買主→仲介業者→売主というルートでやり取りする場面があります(最近では件数が減りましたが…)。ではこのとき、宅建業者である仲介業者が「売買代金を預かること」に法的な問題はないのでしょうか?実はここには信託業法や資金決済法との関係で注意すべき論点がいくつか存在します。
そもそも“売買代金を預かる”ことは信託になる?
買主から売主へ直接支払うのではなく、一時的に仲介業者が売買代金(特に手付金)を預かるケース。このように**「売買代金の支払いを目的として金銭を管理・処分する」行為**は、信託法上の「信託」(信託法2条1項)に該当する可能性があります。
ここで問題になるのが、「信託業者でない宅建業者が業として信託を行うことは、信託業法3条に抵触するのではないか?」という点です。
宅建業者が信託業者に該当しない理由
実は、信託業法には除外規定が設けられています。具体的には、
「委任契約に基づく事務遂行に必要な費用としての預託」は信託業にあたらない(信託業法施行令1条の2)
とされており、媒介契約=準委任契約(民法643条、656条)である以上、媒介業務に必要な範囲内での金銭の預かりは合法と解されています。実際、東京地裁令和4年11月10日判決でも、媒介契約に基づく業務の一環として決済や登記の補助を行うことが認められています。
したがって、仲介業者が売買代金の一部を一時的に預かる行為は、媒介契約の範囲内であれば信託業法に抵触しないと考えられています。
注意すべき「限度」とグレーゾーン
ただし、何でも預かってよいわけではありません。重要なのは、
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「媒介契約に基づく補助行為」かどうか
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「必要な範囲」であるかどうか
という2点です。
たとえば、
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決済後も長期にわたって金銭を預かり続ける
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そもそも媒介契約が存在せず、決済だけを請け負う(いわゆるエスクロー業務)
これらは信託業法違反のリスクがあるため、慎重な判断が必要です。
「送金行為」は為替取引にあたるのか?
次に問題となるのが、仲介業者が買主から預かった売買代金を売主に送金する行為です。一見するとこれは「為替取引」(顧客から依頼を受け、現金を直接輸送せずに資金を移動させる取引)に該当しそうですが、裁判例(最高裁平成13年3月12日決定ほか)では、
「単に資金を送金するだけの行為は為替取引に当たらない」
とされています。つまり、特殊なスキームを用いない通常の送金代行であれば、銀行法や資金決済法の規制対象外というのが判例上の整理です。
改正資金決済法(令和3年施行)との関係
令和3年の法改正により、収納代行(とくに個人が買主の場合)に関しては一定の条件下で「為替取引」とみなされ、資金決済法の規制対象となりました。
しかし、不動産取引においては、
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仲介業者が「弁済」として代金を受け取るのではなく
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あくまで媒介業務の一環として金銭を受け渡している
ため、原則としてこの改正も適用外とされるのが実務上の解釈です(東京高裁平成25年7月19日判決ほか)。
結論:媒介契約の範囲内であれば預かり・送金ともにOK。ただし越えればアウト
まとめると、以下のように整理できます。
行為内容 | 法的評価 | 注意点 |
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媒介契約に基づいて売買代金を一時的に預かる | 信託業法に抵触しない | 決済補助の範囲内に限る |
預かった代金を売主へ送金 | 銀行法・資金決済法に抵触しない | 独自スキームを用いないこと |
媒介契約なしに金銭を預かる(エスクロー) | 信託業法に抵触する可能性 | 業務範囲を逸脱している |
個人買主からの代金を弁済として受領(収納代行) | 改正資金決済法の対象になりうる | 弁済の有無で判断が分かれる |
不動産実務においては、契約形態と目的の明確化、そして預かり金の管理方法に最大限の注意を払いましょう。