貸家建付地・貸宅地の相続税評価とは?節税につながる土地評価の仕組みを徹底解説
相続税評価では、土地の「使われ方」によって評価額が大きく変わります。
本記事では、貸家建付地(かしやたてつけち)や貸宅地(かしたくち)の評価方法、節税効果、そして賃貸併用住宅の特例までを、実務経験を踏まえてわかりやすく解説します。
1.相続税評価の基本原則 ― 「時価」ではなく通達評価が基本
相続税法第22条では、相続財産は原則として「時価」により評価すると定められています。
しかし、土地や建物の時価を個別に算出することは現実的に難しく、評価方法の違いによって不公平が生じるおそれがあります。
このため、課税実務では国税庁の財産評価基本通達に基づき、統一的な評価方式で算出することが定着しています。
この運用は、大阪地判平成28年7月20日や東京地判平成26年1月24日などの裁判例でも、相続税法22条の趣旨に沿うものとして認められています。
2.貸家建付地とは?自由に使えない土地は評価が下がる
貸家建付地とは、土地の上にアパートや賃貸住宅を建て、他人に貸している場合の土地をいいます。
入居者がいる限り、所有者は自由に使用・収益することができず、土地利用に制約が生じます。
そのため、相続税評価では「自分で使っている土地(自用地)」に比べて価値が下がり、結果的に課税評価額も低くなります。
3.貸家建付地の評価方法 ― 財産評価基本通達26による計算式
貸家建付地の評価は、財産評価基本通達第26項に基づき、次の式で求めます。
貸家建付地の評価額 = 自用地としての価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
各要素の意味
- 自用地としての価額: 路線価方式または倍率方式で算出した更地としての評価額。
- 借地権割合: 路線価図などで定められている地域ごとの割合。
- 借家権割合: 全国一律で30%。
- 賃貸割合: 相続開始時点において実際に賃貸している部分の割合。
たとえば、借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%の場合、
1−0.6×0.3=0.82となり、自用地の82%評価(=18%減額)になります。
4.貸宅地の評価方法 ― 借地人が建物を建てている土地の場合
貸宅地とは、他人に土地を貸し、借主がその上に建物を建てている場合の土地を指します。貸主は自由に土地を使えないため、貸家建付地と同様に評価が下がります。
貸宅地の評価額 = 自用地としての価額 × (1 − 借地権割合)
計算例
自用地評価が5,000万円、借地権割合が60%の土地であれば、
5,000万円 × (1−0.6) = 2,000万円
となり、相続税評価額は2,000万円となります。
貸宅地も貸家建付地と同様に、所有者が土地を自由に使えないため評価額が下がり、結果として相続税の節税に有利になります。
5.貸家建付地と貸宅地の共通点と節税効果
貸家建付地・貸宅地のどちらも、他人の権利(借家権・借地権)が存在するため、土地所有者の支配権は制限されます。
その結果、相続税評価額が低くなる=課税対象額が減るという形で、節税効果が生じます。
特に、不動産オーナーや地主にとっては、賃貸経営を継続すること自体が相続税対策になるという点が重要です。
6.賃貸併用住宅の扱い ― 按分評価と小規模宅地等の特例
賃貸併用住宅とは、たとえば5階建てのうち1〜3階を賃貸住宅、4・5階を自宅として使っているケースです。
この場合、土地のうち1〜3階部分は貸家建付地、4・5階部分は自用地として評価します。
小規模宅地等の特例を併用できるケース
要件を満たせば、敷地を按分して次のように評価減を適用できます。
- 賃貸部分:50%減(貸付事業用宅地等)
- 自宅部分:80%減(特定居住用宅地等)
法改正により按分が義務化
平成22年度税制改正前は、一部でも居住していれば全体を80%減できる場合がありました。
しかし、改正後は平成21年以前の建物でも按分計算が必要になり、賃貸部分と居住部分を明確に区分して評価することが求められています。
7.空室・使用貸借に注意 ― 評価減が適用されない場合も
貸家建付地の評価で注意すべきは、賃貸割合の判定です。相続開始時に空室があっても、「一時的な空室」と認められれば賃貸中とみなされます。
しかし、長期間入居者がいない場合や募集予定がない場合は、貸家建付地ではなく自用地として扱われ、評価減が適用されません。
また、親族に無償で貸している「使用貸借」は、賃料の授受がなく経済的負担も生じていないため、減額の対象外です。
8.まとめ ― 実務で押さえるべき評価のポイント
- 貸家建付地・貸宅地は、使用制限があるため自用地より評価が下がる。
- 賃貸割合・借地権割合・借家権割合の確認が節税の鍵。
- 賃貸併用住宅は按分評価と小規模宅地特例の併用が可能。
- 使用貸借や長期空室では評価減が認められない点に注意。
土地の利用形態は相続税評価に大きな影響を与えます。賃貸経営の実態や契約関係を整理し、早めに専門家へ相談することが相続税対策の第一歩です。
📚参考文献・出典
- 相続税法第22条
- 財産評価基本通達 第26項(国税庁)
- 『相談対応 相続Q&A-法律・税金・保険・ライフプランニング-』
- 『税理士が押さえておきたい 地主・不動産オーナーの相続発生後 関与の勘所』
- 『すぐに役立つ 不動産税金【売買・賃貸・相続】の知識』
- 大阪地判平成28年7月20日、東京地判平成26年1月24日 ほか判例